2007年1月、40代半ばにゼロからトランペットと音楽をやり直し


by YTR3320
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2013年 10月 12日 ( 1 )

 大学生の時に冬に野宿者の凍死防止とその人たちが強盗被害に遭わないようにと言う活動に参加していたことがある。焚き火のすすにまみれて路上で寝ている人達に声を掛け、安全な場所に誘導したり、毛布を掛けて上げたり、一緒にカップ麺を啜りながら話を聞いたりした。元炭鉱夫だというある男性高齢者は怪我をして日雇いの仕事もままならない、故郷には家族がいると言いながらも「今更帰るわけにはいかない。迷惑はかけられない。」と家族を頼ることを頑なに拒んでいた。

 矜持、自分の行動の軸、といったものはぎりぎりの時の人の支えになる。それでも生き続けたい、生き続けなければという時の拠り所になる。一方で、自分はこうしなければならない、こう生きてきたのが自分だと言った強すぎる思いは、人の行動を縛り追い詰めていく。身動きが取れなくなっても人に助けを求めることができない。自分何ぞのために相手の貴重な時間を使わせるわけにはいかない、話を聞いて貰うことが相手の時間を無駄に使い不快な思いを掛けるのではと思ってしまう。そもそも、人にどのような言葉を掛ければ良いのか、どのようにきっかけをつくれば良いのか分からない。

 二ヶ月ほど前に『生き心地の良い町 この自殺率の低さには理由がある』(岡 檀、講談社、2013年)を読んだ。戦争被害者から体験を聞き取る仕事をしていた著者は、終戦後半世紀以上の歳月を経てなおも苦しみが増しているひとと徐々に心の傷が癒されている人がいる事実に気が付き、何が差を生んでいるのか解明するために仕事を辞め研究者として「日本の自殺希少地域における自殺予防因子の研究」を行った。その成果と研究の課程を一般向けにまとめたのが本書だ。

 著者は自殺予防因子として次の5つのことを挙げている。
   ・いろいんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい
   ・人物本位主義をつらぬく
   ・どうせ自分なんて、と考えない
   ・「病」は市に出せ
    ・ゆるやかにつながる

 5つの自殺予防因子に共通して流れていることは、人の多様性と変化しうることを認めることだ。だから、自分のことも相手のことも固定して考えない、縛り付けない。

 追い詰められ俯いたまま相談相手を持てずに自殺の淵をとぼとぼと歩いている人、自殺の淵のちかくで立ち尽くしている人、それらの人に本書のメッセージが直接届くのかどうかはわからない。けれども本書を読んだ人達が少しずつ自分の住んでいる地域を変えることで回り回ってメッセージが届いたら、と思う。俯いて歩き続けているとき、立ち尽くしてしまっている時、そんな時でもふと顔を上げて前を一瞬でも見ることがある。そんな時に本書や本書のメッセージが目にはいったら、とも思う。本書が世に出た意義は大きいと思う。

 本書はまた、研究、勉強の面白さ、プロセスを鮮やかに描いている。読者は,読みながら筆者と共に疑問を抱き、仮説を考え、発見し、また調査を続けるという体験をしていく。疑問をもち発見をする喜びを感じることが出来る。徳島県海部町でのミクロの調査からマクロに調査・研究の視点を切り替えて大きく前進していく第四章には高揚感を感じた。筆者は、また社会学研究者の責任についても慎重に触れている。

関連
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/36996
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by YTR3320 | 2013-10-12 08:44 | 読書